昨年末に宮下奈都さんについての記事を書きましたが、そのとき、読んでみたいと思っていたエッセイ「神さまたちの遊ぶ庭」を読みました。
宮下さんが家族とともに福井市から北海道に引っ越して過ごした1年間を描いたエッセイ。事実は小説より奇なりと言いますが、読んでみたら、本当に面白かったです。
北海道のちょうど真ん中、十勝・大雪山国立公園にあるトムラウシ。スーパーまで三十七キロという場所へ引っ越した宮下家。寒さや虫などに悩まされながら、壮大な大自然、そこで生きる人々の逞しさと優しさに触れ、さまざまな経験をすることになる。
と裏表紙に書いてありますが、小説みたいな話だなぁと思いました。本当に北海道に引っ越しちゃう宮下一家おそるべし。
天然な子どもたちの言動がおもしろい
宮下さんには3人の子どもがおり、長男が中学3年生の1年を北海道の学年に1人しかないような中学校に転校して過ごすという……受験生なのに思い切った選択しているなぁと驚きも^^;。
しかし、ここの三兄弟(兄、兄、妹)のお話がとても面白い。3人それぞれが個性的で天然(笑)。思わずくすくすと笑ってしまう描写がたくさんありました。
「この学校はすごいよ、宿題が出たことがない」(のちに宿題は出ているが、長男がやっていないだけだと判明。すごいのは長男。ほんとすごいよ、長男。
と長男君のほんとなんだかふざけてるんだかわからない話やら、エッセイに自分のことを書くなら仮名にして、仮名は「漆黒の翼」でとお願いする次男やら、妄想上の犬「ワンさぶ子」と飼っている末っ子ちゃんとか…ふふと笑えます。
小さな村の地域のつながりに気づかされること
トムラウシの地域のつながりの深さがいいなぁと思ってしまいました。普段の私はそういうつながりを面倒くさいと思ってしまうような人間なのですが、この本で描かれている地域や学校の様子に、素直に「こういうのもいいかも」と思えました。
何故なんでしょう。みんなが全力で生きている気がするからかな。例えば、子どもの学校で、半日かけて調理実習をしたり、1日かけて山で釣りをしたり…こんな学校もあるんだ、面白そうと。そして、地域の人や先生たちが子どもたちに全力で向き合っている姿がとても新鮮でした。
(雪遊びのルールを作るべきかどうかを村人や親、先生らが2時間以上、熱く議論する話なんてすごいなぁと思います)。
こんなに深く地域の人たちと関わって生きることは今までなかった。どこででも暮らせる、と思っていた自分のなんと傲慢だったことか。その土地を愛して、その土地のために少しでもできることをして、学校を支えて、子供たちを守って、助け合って楽しんで、暮らしていく。一朝一夕にできることではない。私たち家族はここで暮らして、少しでも何かを返せただろうか。
宮下奈都さんの物事を見る視点に共感
エッセイなので、宮下さんの目を通していろいろな物事が書かれているのですが、そのものの見方に「そうだなぁ、そうかもしれないなぁ」と共感できる箇所が多かったです。
しあわせって、たぶん、いくつもの形があるんだろう。大きかったり、丸かったり、ぴかぴか光っていたり。いびつだったり、変わった色をしていたりもするかもしれない。そういうのをそのまんまで楽しめるといいとつくづく思った。
しあわせをそのまんまで楽しむという表現が何となく気に入りました。全体を通して、起こったこと、起こることを、ありのまま受け止めて、描いているような気がしました。柔軟に物事をご覧になっているとも感じました。
勉強は、一番や二番だとは思わないが、大事ではあると私は思っている。いろんなところにいろんなことの芽が潜んでいて、それを見つけて育てていけるといい。勉強せずにそれを得るのは、むしろかなりむずかしいことだと思うのだ。
これは受験生の息子さんのことから出てきた文章なのでしょうが、確かになぁと思いました。何のために勉強するのか……そうですね、いろんなことを見つける足がかりとして勉強ってあるのだろうなと思います。(でも、渦中の学生時代はなかなかそれに気づけなくて、勉強って何の役に立つの? 数学とか意味ないじゃんと思っちゃうんですけどねぇ^^;。役に立つ立たないの問題ではなく、勉強はいろんなことを見つける入り口なんだろうなぁ)。
パニック障害のこと
さて、私がこのエッセイを読もうと思ったきっかけは、宮下さん自身がパニック障害であること、そのことについて言及しているという情報を得たからでした。
バスが駄目である描写や、体調不良のこと、飛行機で発作を起こしたことなどが書かれていて、症状は自分とは違いますが、わかるわかると思って読んでいました。
パニック障害だと医師に診断されたときの心境を、
名前をつけてもらって、自分で自分の病気を認めることができた。少し泣きそうになった。
と書いていて、その気持ちはわかると思いました。原因不明で辛いよりも、あ、こういう病気だったんだとわかると少し安心しますよね。
宮下さんは病気を必要以上に卑下するわけでもなく、自然に認めていて、対処しているように見えて、そういう受け流す姿勢もありだなぁと考えさせられました。
さいごに・・・
つらつらと感想を綴りましたが、エッセイ、とても面白かったです。某地方新聞で連載中のエッセイもリアルタイムで読んでいますが、単行本化されたようなので、読んでみようかなと思いました。小説も読んでみようかな。