アガサ・クリスティーの小説を初めて読みました。
殺人事件もなし、ミステリではなく、どちらかというと純文学に近いテイスト。
優しい夫、よき子どもに恵まれ、理想の生活に満ち足りていた40代の女性。けれど、自分自身を見つめなおす中で、本当に自身の人生は上手くいっていたのだろうかと考え始めます。そして、彼女がたどり着いた真実は…。
ページをめくるのがやめられないくらい、面白かったです。読みながら、何だか自分自身の空虚さを突きつけられるような気がしました。
この作品を読み、引っかかる不安や哀しみや畏れを感じない人は感じないのだろうなぁと思います。
安易な考えかたをしてはなりませんよ、ジョーン。手っ取り早いから、苦痛を回避できるからといって、物事に皮相的な判断を加えるのは間違っています。人生は真剣に生きるためにあるので、いい加減なごまかしでお茶を濁してはいけないのです
主人公の学生時代の先生の言葉が、私にも図星すぎて耳が痛いです。けれど、真実に対峙するのは辛いものだとも思います。
ラストでの主人公の選択。
それもまた人生であり、人間の弱さなんだろうなぁ。人のことは言えないので、それを惰弱と断ずることはできないです。ただただ哀しいし、恐ろしいものだと感じるだけ。
あと、胸に残ったのは、主人公とは対照的な生き方をしてきた学生時代の同級生の言葉。今の私はしがみついて変化を嫌って、そのせいなのか、停滞している状態。それがいいのか、悪いのか、まったくわからないのだけど……もっと人生に向き合わないといけないのかなぁとふと感じました。
「人間なんて、まあ、そんなものよね。しがみついてた方がいいのに、投げだしちまったり、ほっとけばいいのに、引き受けたり。人生が本当と思えないくらい、美しく感じられて、うっとりしているかと思うと――たちまち地獄の苦しみと惨めさを経験する。物事がうまくいっているときは、そのままの状態がいつまでも続くような気がするけれど、そんなことは長続きしたためしがないんだし。どん底に沈みこんで、もういっぺん浮かびあがって息をつくことなんて、できそうにないと思っていると、そうでもない――人生ってそんなものじゃないの?」
それにしても、クリスティーの小説がかなり面白かったです。ミステリーはあまり興味ないし…と手に取ってこなかったのですが、また何冊か読んでみようかな^^。